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『お約束』を侮らなければ美しい映画が撮れるんだよ、という見本のような作風だ。
昭和の人気漫画「ワイルド7」。
幾度か映像化されてきたもので、映画化が初めてとは知らなかった。
そもそも『劇画』と呼ばれる漫画のコマ割りは、映画の『絵(画)コンテ』と通ずるものであり、コマ割りの良い劇画はそのままの姿で映像化しても様になる。
1980年代に「TO-Y」(小学館)でスーパーヒットを博した上條淳士さんの作風などは、これの進化系と言って過言ではなかろう。
その作風が後年の様々な劇画や映像に多くの影響を及ぼしたに違いない秀逸な『カット割り』は、まるで動画を観るようだ。
ブレイク後に連作された「SEX」(同じく小学館)に至っては、映画の静止映像を切り貼りしたかのような錯覚すら覚える『カット割り』が、ひたすら展開されてゆく。
毎度のことだが、やや脱線した。
軌道修正しよう。
映画「ワイルド7」は、コンパクトな作品世界の中で虚勢を張らずに展開され、タイトルには見合わない、雑味のない映画である。
音楽も軽さがなく、無為に気分を煽らない。
アクションシーンの何処を取っても、欧米の映画にありがちな派手なクラッシュシーンや罵声はあらわれない。
見せ場は何と言っても、大型バイクの美しい身のこなし。
まるで騎乗の武人かと思わせるキレのある整然とした動作は、道具こそ舶来文化だが、そこには極めて日本的な美学がしのぶ。
ガンアクションも、ことさら大仰に騒ぎまわる人物がおらず、混乱の場面すら整然としていて苛立たされることがない。
演出力は無論のことだがガンアドバイザー(ガンエフェクト)と、そしてバトルコーディネーター(アクションコーディネーター)のセンスがよいのだ。
そして、何よりも編集力。
無駄を削ぎ落として磨きあげる、研磨の作業。
このセンスが最も重要。
主人公も悪党どもも、大人たちも美しいヒロインもまた、粛々と物語の一本道を歩む。
冒頭に登場した運のない強盗たちが少々スタント臭を漂わせ過ぎたが、場面が進めばそれもすっかり忘れてしまう。
中井貴一さんの、本当は腹黒いのか正義の人なのか終盤まで見えてこない面白さ。
ともすれば、このひとが最もワイルドではなかろうかと唸らされる、中原丈雄さんの重厚な男らしさ。
一瞬、若き日のシュワルツェネガーに見えてしまうガンアクションと、時おり垣間見える人情の狭間に身を置く宇梶剛士さん。
見た目とは裏腹にボケ担当が上手いはずが、このところ、やさぐれた男が似合う要潤くん。
憎しみも悲しみも殺意すら美しく、ありがちな悲哀に縋ることなく悲運なヒロインを演じてみせた深田恭子ちゃん。
様々なプロモーション時に見せる態度には少々納得できかねるが、なぜ売れているのかは納得しきりの瑛太くんの説得力ある役作り。
不幸を引きずり生きてきたヒーローとヒロインが、ふと芽生えた愛のために命を削っても、その描写がウェットでないことが嬉しい。
そして作中のウェットな部分を一手に引き受けた格好の椎名桔平さんは、ぜんぶ持って行くのかとヒヤヒヤさせてくれる。
ここは、桔平さんの真骨頂。
そして、『予想外』であろうとすることは無意味なのかと思い知らされるような結末。
様式美、かくあれ。
こういった作品は、決してA級映画である必要はない。
そして、原作を予習する必要も全くない。
終始、空気の引き締まった好ましい映像作品だ。
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小学館文庫 お34-1ワイルド7 映画ノベライズ/奥村千明/望月三起也/深沢正樹 |