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弓坂刑事(桐谷健太くん)が堪らず掻き抱いたその腕の中。
そこに打ち震える心は、和辻摩子(武井咲ちゃん)を依憑とした倉沢さつき(武井咲ちゃん)。
終盤にさしかかり、ジェットコースター化するテレビドラマが多くみられる。
物語のおしまいに密度が増すそれらが、必ずしも、終盤の濃密化によって視聴者に深い感銘を与える、という狙いを秘めているとは解釈し難い。
長時間を費やしながら、なぜ終盤に至って忙しくなるのか。
足し算しかしない劇は、膨張の一途を辿る。
引き算、掛け算、割り算。
よく出来た劇は不要な工程をいたずらに見せ続けることなく、観る者を結論に導くことができる筈なのだ。
あいにくドラマ「Wの悲劇」も、相対的にご多分に洩れず。
本来のテーマである和辻家当主殺害事件をめぐる数々のエピソード。
そして、もうひとつの主軸となる二人の主人公と一人の男が落ちてゆく恋。
番組公式情報として準備されていた恋愛の構造は、倉沢さつき(武井咲ちゃん)を追ううちに彼女と入れ替わった和辻摩子(武井咲ちゃん)に惹かれていく弓坂刑事(桐谷健太くん)。
この主軸になるべき恋の入口が8話中6話目の最終場面という遅いスタートを切ったのには、どうやら訳がある。
当初、恋の始まりは、3話に準備されていたのだという。
およその流れとしては、ずぶ濡れの摩子(武井咲ちゃん)を車中に引き入れた弓坂(桐谷健太くん)が、世話を焼くなか可愛さあまって恋に落ちるという展開。
しかしながら、放送された内容は違った。
弓坂の摩子への強引なキスシーン=恋心が芽生えたとも確認目的の横暴な振る舞いとも解釈可能(or(度々会ううち情が移った, 事情聴取時にキスを仕掛けて公務を侮辱したさつきへの意趣返し, さつきがどうにも別人に見えてしまう弓坂自身にとっての確認行動))。
溜めの少ない素早さで展開される劇は、時間をかけて繰り広げられる劇よりも衝撃と記憶を残すことがある。
さつきを装う摩子が去った車中で、ひとり驚愕と確信を噛みしめる弓坂(桐谷健太くん)の映像すら捨ててもよかったくらいだ。
なぜなら、奪った唇を離したその時、既に驚愕と確信が弓坂の面(読み「おもて」)に表されていたのだから。
3話で恋に落ちることはなかった摩子と弓坂の距離感が、その後の物語の無駄を省く。
刑事が被疑者と男女の仲になったのではどうにも犯行を暴く道筋がたたず、ドラマは並行したふたつの物語に分離するところだった。
弓坂はひたすら倉沢さつき(武井咲ちゃん)に執着し、さつきとして暮らす娘が別人だと気付いたときにはあっさりと興味を失うことで、設定上の職業が説得力を損なうこともない。
そして、捜査のために調べ上げた倉沢さつきの半生が布石となり、さつきを通して和辻摩子の日常に接触することで、ひとつの胎から生まれた二人の住む世界の落差に弓坂は打たれるのだ。
目線だけの小さな芝居だが、弓坂(桐谷健太くん)の心情はよく伝わる。
ふたたびその手をすり抜けた倉沢さつき(武井咲ちゃん)が示した「誰も信じちゃくれない」真実を受け入れることで、弓坂にはこの双生児に心を近付ける必然性が発生した。
もっとも疑っていた弓坂刑事(桐谷健太くん)が、誰にも信じてもらえない倉沢さつき(武井咲ちゃん)の言葉を唯ひとり信じる。
己の誤認を罪と知った弓坂(桐谷健太くん)が、倉沢さつき(武井咲ちゃん)の無実と殺人事件の真相に手を掛けようとした刹那、再び遭遇した和辻摩子(武井咲ちゃん)との距離もとうとう縮まった。
前段階の整理が、ここで効いている。
弓坂刑事(桐谷健太くん)の目に何も映らないうちに始まったのでは、恋はただのサイドストーリーに終わってしまっていた。
さつき(武井咲ちゃん)の境遇を理解し、己の罪を悟った弓坂刑事(桐谷健太くん)が再び出会ったのは、倉沢さつき(武井咲ちゃん)に生まれ変わろうとする和辻摩子(武井咲ちゃん)。
そこに居たのは、高い行動力と、生き抜くために身につけて来た厚顔によって厚く覆われた鎧を取り除いた、倉沢さつき(武井咲ちゃん)の裸の心。
弓坂(桐谷健太くん)が堪らず掻き抱いた女は、さつき(武井咲ちゃん)の裸の心なのか、さつきにとり憑かれてゆく摩子(武井咲ちゃん)なのか。
鮮やかに走り出す恋の物語。
どちらを愛しても、向かう先にあるものは悲劇。
薄っぺらな役作りでは、とても御せない弓坂刑事。
『桐谷劇場』がその奥底まで、深く視聴者を導く。
予想外にハイクオリティな武井咲ちゃんの芝居と相まって、いよいよ、面白くなってきた。
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